アンコールは君だけに ~孤高のピアニストと秘密の契約婚~

「スポンサー側は、記事が出たことでかなり神経質になっているみたいよ。多賀宮財団にとって、多賀宮奏のイメージは最重要事項だから」
「存じております」

 事実を淡々と伝える言葉。だが、その奥に刃が隠れているように見えた。

「彼は強がっているけど……本当は相当なプレッシャーを受けているんじゃないかしら」
「……そう、ですね」
「そのなかにはあなたが身を引くことで解決する問題もあるんじゃない?」

 伊織は淡々と口にする。
 責めているわけではない。ただ、事実を述べているだけの口調――それが一番、紬希に刺さっていると、理解しているかのようだった。

「……考えます」

 紬希は搾りだすように答え、沈黙を選ぶ。伊織はそれ以上突っ込んでこなかった。表面上は何事もなかったかのように、白々しい世間話を続けていく。そのなかには奏のかつての恋人のことも入っていたが、紬希が反応しないのを見て苦笑していた。
 奏と紬希の関係が契約によるものだと知っているだろうに、伊織は奏の過去の恋人の話で紬希の心を揺さぶろうとしたことを謝り、それ以降はお互いが夢中になっているピアノの話題に落ち着いた。実際にふたりで話してみると、奏とはまた違う居心地の良さを感じ、紬希は痛感する。
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