アンコールは君だけに ~孤高のピアニストと秘密の契約婚~
「今回の件で、ご迷惑をおかけしています。わたしが彼との契約を終わらせて……もし身を引くことで問題が解決するのであれば、そのようにします」
声は思っていたよりも震えなかった。
担当者は、少し困ったような表情をしている。
「たしかに、こちらとしてはイタリア本社への報告義務がございます。が、奥様……それは」
「奏さんの音楽を、守りたいんです」
紬希が本気だということに気づいたのだろう、担当者は長い沈黙の後にこう口にする。
「では……上と相談します」
渋々、紬希の主張を聞き入れた彼はどこか疲れ切った表情を浮かべていた。