アンコールは君だけに ~孤高のピアニストと秘密の契約婚~
奏の声は、静かだった。
怒鳴らない。だからこそ、冷たさが際立つ。
「……すみません」
「謝罪は求めていない。理由を聞いている」
「奏さんが……大変そうで。わたしのせいで、スポンサーに迷惑をかけているから。だから、わたしが直接」
「君が動く必要はない」
きっぱりと、遮られた。
「これは私の問題だ。君が首を突っ込む話ではない」
――私の問題?
また、あの言葉だ。そんなに自分は部外者なのだろうか。紬希は唇を噛みしめる。
「でも……」
「もういい」
奏は紬希からすっと視線を外し、冷たく告げる。
「今後、勝手な行動は慎んでくれ」
それだけ言って、部屋を出ていった。
バタン! と珍しく彼が荒々しく扉を閉じた姿を見送った紬希は、へなへなとその場に崩れ落ちる。
胸が痛い。
――わたしだって……奏さんを守りたかっただけなのに。
涙が、出そうになるが、ここで泣くわけにはいかない。
これは自分が招いたことだ。勝手に動いた自分が悪い。
――これ以上、わたしにできることはないのかな。
その夜、ピアノの音は聞こえなかった。