アンコールは君だけに ~孤高のピアニストと秘密の契約婚~

   * * *


 扉を閉めた後、奏は廊下で立ち止まった。自分でも、驚いていた。
 あんな風に扉を閉めたのはいつぶりだろう。

 ――なぜだ?

 苛立っているのか。違う。
 怒っているのか。それも、違う気がする。

 ――怖かった。

 その言葉が、頭の中に浮かんだ瞬間、奏は息を呑んだ。
 怖い。
 紬希が、単独でスポンサーに乗り込んだと聞いたとき。
 最初に感じたのは、怒りではなく――恐怖だったから。
 彼女に何かあったらどうする。傷つけられたらどうする。
 もし、俺の知らないところで……。

 ――やめろ!

 奏は、壁に手をついて呼吸を宥める。過呼吸に陥りそうになって、深呼吸する。
 感情が、制御できない。こんな風に心のなかが荒ぶることなど、今までなかった。
 誰かのことを強く想うことが、こんなにも苦しく、溺れそうになるなんて――……。
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