アンコールは君だけに ~孤高のピアニストと秘密の契約婚~

「……何の用だ」
「久しぶりですね、奏さん。少し話せませんか」
「話すことはない」

 即座に、遮った彼はそのまま言い放つ。

「帰ってくれ」

 撫子は、少しだけ表情を崩した。

「冷たいですね。昔はそんな人じゃなかったのに」
「昔の話だ」

 奏の声は、完全に温度がなかった。
 撫子はゆっくりと紬希に視線を移して囁く。

「奥様……奏さんのそばにいるのは、大変でしょう?」

 柔らかい声。だが、その奥には鋭い刃がある。

「こんなに冷たい人の妻なんて、あなたには荷が重いんじゃないかしら」
「撫子」
< 152 / 224 >

この作品をシェア

pagetop