アンコールは君だけに ~孤高のピアニストと秘密の契約婚~

 マネージャーの声に顔を上げる。差し出されたスケジュール表に視線を落とすと、いくつかの打ち合わせの中に、ひとつだけ目を引く項目があった。結婚にまつわる面談。自分のことだとあたまのなかでは理解しているが、一方的に話を進められている現状には吐き気を催す。彼らは待てないらしい。急かされたところで良縁が転がっているとも思えない。

 ――くだらない。

 ふたたび内心で吐き捨て、奏は鼻を鳴らす。
 多賀宮家の意向、財団とスポンサーの都合。世界的ピアニストとして名を馳せるようになった彼のバックグラウンドを補完するための存在が必要だと、一年で構わないと言いくるめられてしまった自分にも非はある。納得はしていないが……。
 長年、家からは「多賀宮の後継者にふさわしい伴侶を」と急かされ続けてきた。財団の顔として、演奏家としての品格を示せと。お飾りの妻を一年間侍らせることのどこが品格なんだと毒づきたくもなるが、スポンサーに降りられては困るのも事実である。
 愛のない結婚など、最初から望んでいなかった――が。
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