アンコールは君だけに ~孤高のピアニストと秘密の契約婚~

 ――だから、なのか。

 ビジネスの面で考えれば感情を挟まない関係の方が、よほど都合がいい。一年間という期限があることで、傷つくこともなければ、傷つけることもないだろう。
 ならば自分のお飾り妻を演じてくれる好条件の女性と早く契約を結んで煩わしいことから解放されたい。
 そう結論づけて、奏は書類を閉じた。

「時間通りだ」

 短く告げると、マネージャーは一礼した。
 それで話は終わるはずだった。だが。

「……今回の方は、少し事情が特殊でして」
「事情?」
「はい。こちらの条件に、全面的に応じる意思があるとのことです。しかも……ご家族の問題を抱えておられるようで、報酬よりも、そちらの解決を強く望んでいるようです」

 興味はない。
 誰であっても、条件さえ満たせば同じだ。

「問題ない」

 そう言い切って、立ち上がる。
 その選択が、何を変えるのかも知らずに。
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