アンコールは君だけに ~孤高のピアニストと秘密の契約婚~
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奏が旅立った日の午後、紬希は荷物をまとめた。
自分のために用意されたドレス、アクセサリーにはふれることができなかった。軽井沢で彼が買ってくれたカーディガンやパンプスも。
そして休眠期に入った紫陽花の鉢植えも。
自分が持ち込んだものだけを、静かにスーツケースに入れていく。
その様子を黙って見つめていた佐伯が、部屋の前でもの言いたそうに立っていた。
「……奥様」
その瞳は潤んでいる。
「佐伯さん、お世話になりました」
紬希は、深く頭を下げる。奏の妻としてこの屋敷で生活する際にたくさん世話になった家政婦長は、彼女の決意を前に、震えている。
「いろいろと、ありがとうございました」