アンコールは君だけに ~孤高のピアニストと秘密の契約婚~
奏は、手紙を持つ手を止め、まじまじと紙面を見つめた。
筆跡が、最後だけ乱れている。
――紬希。
今すぐ帰りたい。
だが、今夜リハーサルがある。明日、本番がある。
奏は立ち上がり、マネージャーを呼ぶ。
「屋敷に連絡を入れてくれ。紬希に――」
マネージャーが、少し困った顔をした。
「……奥様は、屋敷を出られたそうです」
奏は、動きを止めた。
「……なんと言った」
「佐伯から連絡が入りまして。奥様が荷物をまとめて、お発ちになったと」
言葉に詰まる。