アンコールは君だけに ~孤高のピアニストと秘密の契約婚~
 紬希がいなくなってようやく納得した。
 音が変わったのも。
 帰宅を急ぐようになったのも。
 「ただいま」と言いたかったのも。
 すべてが、紬希のためだったのだと。

 ――まただ。俺は気づくのが遅すぎる。

 その言葉が、繰り返しあたまの中で鳴る。
 奏は、深呼吸をしてからゆっくりと立ち上がった。
 楽屋の鏡に、自分の情けない顔が映っている。くたびれた顔をしている。
 こんな疲れた顔で弾いていたのかと、紬希が見たら、心配するだろうと、鏡の前で奏は嗤った。

 ――もう、心配してもらえない。
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