アンコールは君だけに ~孤高のピアニストと秘密の契約婚~
* * *
十一月に入って、街の景色が少しずつ変容をはじめた。
ハロウィーンの飾りが消えて、代わりにクリスマスの気配がどこからともなく漂い、拡がっていく。
イルミネーションの準備が始まり、街角にツリーが現れ、どこからかジングルベルが聞こえてくる。
屋敷への帰り道、奏は車窓から街を眺めていた。
――彼女は、こういう景色を喜ぶのだろうか。
紬希と軽井沢で手を繋いで歩いたのは、つい三ヶ月前のことだ。非日常的な観光地の散策はまるでデートをしているかのようで、内心奏も浮ついていた。
あのときの彼女は、土産物屋の前でいちいち立ち止まって、琥珀のようなキラキラした瞳で店の中を覗いていた。だからつい出来心であれこれ買って彼女を驚かせてしまった。遠慮しながらもはにかんで受け取ってくれたカーディガンやパンプスは、使うのがもったいないからと結局一度も使われずに紙袋のなかに仕舞われたままだが……できれば奏の前で着たり履いたりしてほしかった。