アンコールは君だけに ~孤高のピアニストと秘密の契約婚~
* * *
三日後、伊織から連絡が来た。
「会えますか。話があります」
指定された場所は、都内のカフェだった。全国にあるチェーン店ではなく、個人経営の店らしく、見慣れない種類のコーヒーが豆から取り揃えられている。
伊織はすでに席に着いていた。テーブルの上には生クリームたっぷりのウインナーコーヒーが置かれている。一瞬、その場に紬希がいるのかと錯覚しそうになったが、奏の向かいに座っているのはいつもの隙のない装いの伊織、ただひとり。
ふだんは険しい表情をしている彼女だが、今日はどこか表情が柔らかく見えるのは、紬希が好きなコーヒーを彼女も好んでいるからだと知ったからだろうか。
奏は無表情のまま、ちらりと伊織に視線を送る。
「久しぶりね」
「用件を言え」
「相変わらずね」
伊織は、カップを置いた。