アンコールは君だけに ~孤高のピアニストと秘密の契約婚~
 音を追っていた、琥珀色の瞳。
 「ひとりじゃない気がします」と言っていた、凛としたあの声。
 ウィーンで、自分が崩れたときも、縋るように掴んだ腕を彼女が振り払うことはなかった。
 軽井沢で、池のほとりに立っていたときに「素敵」と言った、あの笑顔の輝きが眩しくて、奏は目を背けていた。
 そして手紙の最後の一行――筆跡が、乱れていたことで……奏はその意味を、ようやく察することができたのだ。

 ――好きだったのか? 俺のことが。

 そう気づいた瞬間――何かが、胸の奥で崩れた。
 崩れて、何かが溢れてくる。そのまま、鍵盤に手を置いた。
 弾かない。
 ただ、触れているだけ。

 ――じゃあ俺は?

 その先を、まだ言葉にすることはできなかった。
 明日、リゾナンツァの担当者に会う。紬希がひとりでスポンサー企業の元に訪れ、何を言ったのか。
 何かが、わかるかもしれない。
 呼吸を整えた奏は、鍵盤から手を離す。
 窓の外で、イルミネーションが灯っている。

 ――彼女に……見せてやりたい。

 その言葉が、胸に刺さる。
 今度はもっと。もっと深く。
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