アンコールは君だけに ~孤高のピアニストと秘密の契約婚~
「世界的ピアニストと、その妻。二人が寄り添う姿が、リゾナンツァのブランドイメージに合うと。実は奥様がいらっしゃったとき、そちらのオファーをしようとしていたんです」
「……では、なぜ」
「奥様が『身を引きたい』とおっしゃるので……我々も困惑してしまって。上に報告せざるを得なかった、というのが正直なところです」
「――それは」
「奥様は、多賀宮様の負担を減らそうとして来られたんですよね。でも実際は……奥様がいてくださることが、私どもにとっても価値のあることだったんです」

 担当者は、少し申し訳なさそうに続けた。

「きちんとお伝えできていれば、こんなことにはならなかったかもしれません。申し訳ございませんでした」

 奏は、しばらく黙っていた。

 ――紬希、は。

 スポンサーを守るために動いた。
 俺の音楽を守るために、一人で乗り込んだ。
 それなのに俺は「勝手なことをするな」と、冷たく突き放した。

 ――俺にはできなかったことを。
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