アンコールは君だけに ~孤高のピアニストと秘密の契約婚~
ウィーンのバーで、紬希に言った言葉が蘇る。
家族を守るための選択ができると言った紬希に、そう言った。
俺はできなかった。愛することも、守ることも、信じることも全部、できなかった。
それなのに……。
――紬希は、当然のように。
愛していたから、守ろうとしたし、愛していたから、身を引いた。
愛していたから――あの手紙を書いて、海外に渡った奏に時間差で送り届けたのだ。
――愛していた?
その言葉が、胸の中で静かに灯る。俺も。
――俺も、愛していたのか!
ずっと、そうだったことに、目を瞑っていた。
コンサート会場で初めて出逢ったあの夜から。あの琥珀のような瞳を見たそのときから。