アンコールは君だけに ~孤高のピアニストと秘密の契約婚~
chapter,10
病院の廊下は、白かった。
十二月の朝、面会時間が始まったばかりの病棟は静まり返っている。消毒液の匂いがうっすらと漂っている無人の廊下を、奏は音を立てないよう歩いていた。
受付で聞いた雅希の病室はこの先にある。ここ数年入退院を繰り返している彼の病態は落ち着いているという。奏が紬希へ渡した契約結婚の報酬のほとんどが、彼のために使われている。家族のために献身する紬希の姿を想い、ため息をつく。
角を曲がったところで、人影と鉢合わせた。
――久住蓮。雅希の幼馴染で、紬希に好意を持っている男。
蓮も、奏を見て立ち止まる。
しばらく、二人は黙って向き合って、互いを探るように視線をぶつけた。
先に口を開いたのは蓮の方だった。
「雅希なら、眠っていますよ……それより多賀宮さん、紬希さんを探しているんですか?」
奏は素直に頷いた。
「どこにいる」