アンコールは君だけに ~孤高のピアニストと秘密の契約婚~
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金沢に向かう新幹線の中、奏はずっと窓の外を見つめている。途中駅の軽井沢に停まった際に、紬希と過ごした甘美な夏のひとときを思い出し、ずいぶん遠くへ来てしまったとため息をついた。ふたりで一緒にいることが心地よくて、契約外だと釘を刺しながら彼女を抱いた朝を想えば、あのときもっと本音で彼女に向き合っていられれば今のように途方に暮れることもなかっただろう。だが、過ぎ去ってしまったことは仕方ない。過去を悔やむだけでなく、彼女とともに生きる未来を取り戻したいのだと奏は己に言い聞かせ続ける。
車窓の向こうに、雪をかぶった山が見えた。冬の日本海側の空は、鉛色に曇っていが、その重い雲の隙間から一筋だけ光が差していた。
――待っていてくれ。
奏は、その光を見つめながら心のなかで希う。金沢まで、まだ遠い。迎えに行って、拒まれたらと考えると足がすくむ。
だが、あの光の向こうに紬希がいると思うと、行かなくてはと心が逸る。