アンコールは君だけに ~孤高のピアニストと秘密の契約婚~
「話は聞いていると思うが」

 単刀直入に話を向ける。彼女はまっすぐに頷いた。

「はい。すべて理解しております」

 それはあまりにも迷いのない返答だった。奏はその態度を見てわずかに眉を上げる。

「……では確認する」

 彼女を一瞥し、奏は淡々と言葉を並べていく。

「婚姻は形式のみ。期間は一年。対外的には妻として振る舞ってもらうが、私生活への干渉はしない」

 紬希は、静かに聞いている。表情を動かさず、感情を押し隠すように。
 だがその指先が、スカートの上でわずかに白くなっているのを奏は見ていた。

「報酬は提示した通りだ。家族の件についても、こちらで対処する」

 その一言に、彼女の呼吸がわずかに乱れたものの、すぐに元に戻った。
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