アンコールは君だけに ~孤高のピアニストと秘密の契約婚~
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紬希の祖母の家は、金沢の旧市街、長町武家屋敷跡の近くにあった。伝統環境保存区域および景観地区に指定されているだけあり、いまも昔ながらの土塀や石畳の小路が残っている。趣のある景観のなかでも特に立派な門構えの日本家屋の前に、奏は立つ。
チャイムを押すと、しばらくして扉が開いた。手入れの行き届いた庭がよく見える。
出てきたのは、七十代とおぼしき和装姿の女性だった。品のある白髪。穏やかな目。だが、その奥に鋭さがある。
「……多賀宮奏さんですね」
奏を見て、女性は微笑む。驚いた様子がない。
「はい。紬希さんはいらっしゃいますか」
「おりますよ」
女性は、少し間を置いて呟く。
「来ると思っていました」
その言葉に、奏は少し意表を突かれた。
「……どういう意味ですか」
「あの子の話を聞いていれば、わかります」
女性が、奥に向かって声をかける。
「紬希、お客様よ」
しばらくして、廊下の奥に人影が現れた。エプロン姿で、手に布巾を持っている。紬希だった。
奏を見た瞬間、彼女の動きが止まった。