アンコールは君だけに ~孤高のピアニストと秘密の契約婚~
   * * *


 金沢の旧市街を、紬希と奏は二人で歩いていた。
 十二月の金沢は、冷たい雨が降ることが多いと聞いていたが、今日は曇り空の下、湿った風だけが吹いていた。
 石畳の路地に、古い町家の軒先が並んでいる。
 紬希は奏の隣を歩きながら、小声で問いかける。

「……金沢、好きですか」
「初めて来た」
「そうなんですか」
「――君の故郷の空気がする」

 奏が、ぽつりと雨粒のように呟いた。
 紬希は、驚いて奏を見上げる。

「……どんな空気ですか」
「落ち着いた、芯のある空気だ」

 紬希は、その言葉に目を丸くする。

 ――わたし……落ち着いた、芯のある?

「どこがですか」
「わからないのなら、わからないでいい。俺はそんな君が好きだ」

 奏はきっぱり「好きだ」と言って、恥ずかしそうに瞳を眇めた。
 紬希はどこか嬉しいような、くすぐったいような不思議な温かさを胸に感じて、微笑した。
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