アンコールは君だけに ~孤高のピアニストと秘密の契約婚~
紬希が驚いて顔を上げる。それを確認して、奏は滔々と告げる。
「スポンサーの件で、君を突き放したのは事実だ。一人で動いた理由も聞かずに」
「でも、わたしが勝手に……」
「紬希」
彼女の言葉を遮って、奏は紬希の名を口にする。ひくっ、と涙を引っ込めた彼女を愛しく思いながら、彼は優しく言葉を続ける。
「マネージャーや三条、スポンサーに至るまで……君が何のために動いたか、あとで聞いたんだ。紬希は俺の音楽を、守ろうとしてくれていたんだろ?」
紬希は、何も言えなかった。
「ありがとう」
その一言が、胸に沁みる。
奏が「ありがとう」と言うのを、初めて聞いた気がした。
「……奏さん」
「コンサートが終わったら、ぜんぶ話す」
奏は、窓の外を向いた。
「それまで、待っててくれ」
紬希は、小さく頷いた。
車窓の外に、東京の街が近づいてくる。
夕暮れの空に、クリスマスのイルミネーションが灯り始めていた。