アンコールは君だけに ~孤高のピアニストと秘密の契約婚~
* * *
コンサートホールは、師走の賑わいの中にあった。
紬希は、奏に連れられて楽屋に入った。
「今夜は、ここで聴いていてくれ」
舞台袖のすぐそば。見た目は安っぽいパイプ椅子だが、自分のために設置された特別な座席だ。
紬希ははにかみながら頷く。
「……はい」
奏は、紬希を見た。
「行ってくる」
「……行ってらっしゃい」
いつもの言葉。だが、今日はいつもとは違う響きがある。
奏が舞台へ向かっていく。
紬希は、椅子に座って、深呼吸した。