アンコールは君だけに ~孤高のピアニストと秘密の契約婚~
 紬希の目から、また涙が溢れだす。今度は、止めなくていい涙だと、喜びの涙だからと言い訳しながら、濡れた瞳で最後まで彼の演奏を凝視していた。
 演奏が終わると同時に割れんばかりの拍手が鳴る。その拍手を背に、奏が立ち上がり一礼する。
 そして――舞台袖に向かって、歩いてきた。観客のざわめきが遠ざかっていく。紬希は思わず椅子から立ち上がり、一歩、後ずさりする。
 だが、彼女のところへ真っすぐに来た奏はパイプ椅子を蹴飛ばした。

「……奏さん?」

 紬希の前に跪き、胸のポケットから、小さな箱を取り出した。
 リゾナンツァの、深い青のケース。
 開くと、プラチナの指輪が入っていた。

「契約じゃない」

 奏が、紬希の手を取り、そのまま口づける。

「俺が、紬希を愛しているんだ」
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