アンコールは君だけに ~孤高のピアニストと秘密の契約婚~
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コンサート当日の東京は雲一つない晴天だった。乾ききった空気のせいでふだん以上に空が高く澄み渡っている。
せっかくだからと佐伯に振り袖を着せられた紬希は、ホールに向かう道を歩きながら、ふと立ち止まる。
成人式に参加していない紬希にとって初めての振り袖だ。二十歳で着るはずだった母の着物は父が亡くなった際に処分したので着ることはもうないと思っていた。結婚してるなら振袖じゃなくて留袖じゃないのかとも思ったが、佐伯が嬉しそうに着つけていたので紬希は何も言わなかった。黒地に赤い椿の花が刺繍された大人びた振り袖は、もう着ないからと年末に顔を出した伊織が紬希に譲ってくれたものだ。会場入りしている奏にはまだ見せていない。どんな反応をするだろう?