アンコールは君だけに ~孤高のピアニストと秘密の契約婚~
一年前の今日、奏と初めて目が合ったあの日から、何もかもが変わった。
パリの石畳を歩いた。ウィーンの夜に、二人でグラスを傾けた。軽井沢の朝の空気を、二人で吸い込んだ。
――あの日があったから、いまのわたしがここにいる。
思い出し笑いを浮かべる紬希を見て、奏のマネージャーが「どうかしましたか?」と心配そうな顔をしている。
いけない、いまは彼の妻としてしっかり役目を果たさなくては。
「なんでもないです」
紬希は、笑って歩き出す。慣れない草履でゆっくりと。
一月の青く澄んだ空の下、晴れ着姿で紬希は奏に逢いに行く――……。