アンコールは君だけに ~孤高のピアニストと秘密の契約婚~

   * * *


 都内のコンサートホールは満員だった。年明けからスタートした多賀宮奏のソロリサイタル、東京公演の最終日だからだろう。来月からは舞台を大阪に移す。その際は紬希も一緒に行くことになっている。こうしてみると新婚旅行みたいだなとぼんやり思う。そんな風に思えるようになるなんて、昨年の今頃は考えてもいなかった。
 一月の夜。初めて彼の音を目の当たりにしたあの夜と同じ季節に、紬希は客席に座っている。
 あの夜と違うのは、いまが昼で、隣に空席がないこと。そして母のドレスではなく、奏とお揃いの結婚指輪をして、伊織がくれた振り袖を着ていることだ。
 紬希の隣には奏のマネージャーが座っていた。
 手のなかのプログラムを眺めながら、紬希は舞台の上のピアノへ思いを馳せる。

「まもなく開演いたします――」

 アナウンスが流れ、やがて照明が落ちる。
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