アンコールは君だけに ~孤高のピアニストと秘密の契約婚~
* * *
プログラムは滞りなく終わり、拍手とともにアンコールを望む観客たちの熱気が湧く。
奏は鍵盤の前に座り直し、深呼吸をしている。
そして最初の一音を鳴らす。
その音が鳴った瞬間――紬希は、息を呑んだ。
――この曲……リスト版の、“献呈”だ。
シューマンがクララへの愛を書いた歌曲を、リストがピアノ独奏用に編曲した曲。
『あなたは私の魂、私の心』
……その言葉が、音のなかに溶けている。
大勢の観客の中で、紬希だけが気づいていた。
これが誰に向けられた音なのかを。
やがて、奏の視線が動いた。
――わたしを、探している?