アンコールは君だけに ~孤高のピアニストと秘密の契約婚~
* * *
演奏が終わり、割れんばかりの拍手が周囲を包む。
奏が立ち上がって、一礼した。舞台袖に引き上げていく、その背中を紬希は凝視していた。
あの夜……最初に彼の演奏を聴いた夜も、紬希はこうして遠くから背中を見つめていた。
でも今は違う。
紬希は帰路に向かう観客とは逆方向へ、早足で歩きだす。向かうは彼が待つ楽屋だ。
息を切らして扉を開けると、奏はコートを脱いでいるところだった。
紬希に気づいたのか、すっきりした表情で声をあげる。
「着物」
「はい」
「似合うな。客席にいてもすぐに見つけられたぞ」
「……あ、はい。いえ、そうじゃ、なくて」
奏に振り袖姿を褒められたのは嬉しいが、それよりも紬希は彼が何を思ってあの曲を弾いたのかが気になって仕方がない。