アンコールは君だけに ~孤高のピアニストと秘密の契約婚~
「三条伊織です」
優雅に微笑む彼女は紬希を無視することなく、親しげに声をかけてきた。
「奏さんの奥様でいらっしゃるの? 初めてお目にかかります」
その笑顔に邪悪さは存在しなかった。
だが、視線の奥に何かが宿っている。
紬希に向けた友好的ではない、何かが。
「水瀬……多賀宮紬希です。はじめまして」
名乗りながら、わずかに動揺していた。
この人が――本来、多賀宮家が奏の結婚相手として望んでいた女性だ、と直感で理解する。
「まあ、素敵なお名前。どちらのご出身ですか?」
柔らかい問いかけだったが、その奥に値踏みする目があることに紬希は気づいてしまう。