アンコールは君だけに ~孤高のピアニストと秘密の契約婚~
「続けて」
短く、確かにそう口にした。
紬希は少し戸惑いながら、また鍵盤に向かう。
さっきより少しだけ、緊張する。
だが、ふたたび音を鳴らしはじめると、傍に奏がいることが気にならなくなった。久しぶりに鍵盤に向かうのが楽しくて、夢中になって弾いていた。
奏は扉の前から動かない。
しばらくの間、その場に立ったまま、紬希の音を聴いているようだった。
彼が狼狽えていることに、彼女は気づかない。