アンコールは君だけに ~孤高のピアニストと秘密の契約婚~
――お父さんがいなくなってから女手一つで育ててくれたお母さんを、これ以上苦しめたくない。
幸い、母方の両親が紬希と雅希の学費を援助してくれたこともあり、紬希は大学を出て社会人になることが叶った。
だが、弟の病気が判明したことで、紬希は看病のため勤め先を辞めざるを得なくなった。老いた母ひとりに病身の彼を任せることは難しいと思ったからだ。
一人になった夜、声を殺して泣いた。
またこの病気と戦わなければならない。今度は自分が戦力になって、父を奪ったあの病気と闘うのだ。
――絶対に、雅希は失わない。
そう決めた。
何があっても起こっても。どんな選択をしてでも絶対。
母を通じて契約婚の話が来たのは、そのすぐ後だった。
あのコンサートに行ったのは、もしかしたら最後の贅沢になるかもしれないと思っていたからだ。
まさかその相手が、あの夜のピアニストだとは思っていなかったけれど。
――雅希、待ってて。
紬希は、窓の外の星を見つめながら弟を想う。
やがて、瞼が重くなってくる。
眠れないと思っていたのに、気づいたら意識が遠のいていた。