アンコールは君だけに ~孤高のピアニストと秘密の契約婚~
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パリ公演の前日は、午前中だけ時間が空いていた。午後からは会場でリハーサルに入るが、少しなら観光できると奏は紬希を連れて、ホテルを出た。
「どこへ行くんですか」
「セーヌ川だ」
奏はそれだけ言って、前を歩いていく。
三月末のパリは、まだ肌寒かった。
だが、空は青く澄んでいて、石畳の街並みが朝の柔らかい光に包まれていた。
セーヌ川のほとりに出ると、川面に空が映り込んで一枚の絵画のようになっている。
「……きれい」
紬希は、思わず立ち止まった。
川沿いのブーキニストが古書や絵葉書を並べている。観光客が行き交い、どこからかフランス語の歌声が聞こえてくる。