アンコールは君だけに ~孤高のピアニストと秘密の契約婚~
   * * *


 ウィーンの夜は、パリより静かだったが、リサイタルの熱量は変わらなかった。二日間に渡る公演は大成功だったが、楽屋に戻った奏はどこか疲れているように見えた。
 楽屋に戻った奏は、ソファに腰を下ろすなり、額に手を当てた。
 顔色が、悪い。モスグリーンのドレスを着ていた紬希は駆け寄り声をかける。

「……奏さん? 大丈夫ですか」
「問題、ない」

 言葉とは裏腹に、呼吸が乱れている。
 肩が、上下している。

 ――これって、もしかして過呼吸……?

 紬希は迷わず、奏の隣に座った。

「ブラウスのボタン、少し外してもいいですか」

 奏は、黙って頷く。紬希は、奏のブラウスの上のボタンをいくつか外した。
 スタッフに声をかけて、水を持ってきてもらう。
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