アンコールは君だけに ~孤高のピアニストと秘密の契約婚~
奏いわく、テキーラとオレンジジュース、ザクロの果汁と砂糖で作られたグレナデンシロップによるお酒で、赤から橙色へと変化するグラデーションが美しいのだという。
「たしかに……グラスのなかに朝焼けの空が見えますね」
「ただ、飲みやすいわりにアルコール度数は高いから飲み過ぎるなよ」
「奏さんは大丈夫なんですか?」
「どうせ明日は移動日だ」
「だからって酔いつぶれるわけにもいきませんよ」
「紬希が介抱してくれるだろ」
「……それも契約のうち、ですか」
アルコールが入っているからか、妙に奏が饒舌である。紬希は苦笑しながらバーテンダーが出してくれたノンアルコールのカクテルに口をつける。
しばらく、二人とも黙っていた。
「……過去に、一度だけ」
不意に、奏が口をひらく。
「愛していると思った人間がいた」
紬希は、グラスを持つ手を止める。