アンコールは君だけに ~孤高のピアニストと秘密の契約婚~
――そうか。だから、感情は……愛は必要ないって言っていたんだ。
紬希は、静かに頷いた。
「……教えてくれて、ありがとうございます」
奏は少し意外そうな顔をした。
「礼を言われるようなことじゃないだろ」
「でも……話してくれたから」
紬希はグラスを見つめながら言う。
「奏さんが、少しだけ近くなった気がするんです」
彼は沈黙で応える。それを見て紬希は追い打ちをかけるように言葉を紡ぐ。
「お互い様ですね」
奏は何も言わなかった。
ただ、視線がわずかに揺れた。
なぜか彼の方が傷ついているように見えて、紬希はそれ以上何も言えなかった。