アンコールは君だけに ~孤高のピアニストと秘密の契約婚~
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ロンドン最終公演の夜。
大盛況のカーテンコールが終わって、紬希は早足で楽屋への廊下を歩いていた。今日着ているのは現地で奏が調達してくれたブラックベルベッドのショート丈のドレス。ショート丈とはいえ、日本人の紬希が着ると丈がひざ下になるので露出度も低く、それでいて動きやすくて快適だった。
後ろから、足音とともに自分を呼ぶ声が聞こえてくる。
「紬希」
振り返ると、奏が立っていた。三か国で開催された欧州ツアー最終日、ロンドン公演では交響楽団によるスペシャルコラボもあり、ピアノ協奏曲第二番のロマンティックな旋律には紬希も思わず涙を浮かべてしまった。そんな彼が、自分の名前を呼ぶ姿を見て首を傾げる。
「どうかしましたか?」
何がどう違うとは言い難いものの、いつもと、少し違う。
ふだんなら無表情で不愛想なまま話かけてくるくせに、いまはどこか、迷っているような顔をしている。
「……今夜の演奏、聴いていたか」
「はい。とても……素晴らしかったです」