アンコールは君だけに ~孤高のピアニストと秘密の契約婚~
 夕食の席で、メインの鶏料理が運ばれてきたときも。

「パクチーは苦手か」
「え?」

 奏にそう言われた紬希は思わず顔を上げていた。

「ヨーロッパで、パクチー入りのサラダを残していただろ」
「……覚えていたんですか」

 奏は答えないでコーヒーを一口啜りながら視線をそらす。
 紬希は、皿の上の料理を見た。よく見ると、今夜のメニューにパクチーは使われていない。

 ――わざわざ佐伯さんに言ってくれたんだ。

 胸の奥が、静かに温まる。

「……ありがとうございます」

 そう言うと、奏はまたそっぽを向いた。

「礼には及ばない」

 その耳が、わずかに赤い。
 紬希は笑いをこらえながら、フォークを持ち直した。
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