アンコールは君だけに ~孤高のピアニストと秘密の契約婚~
 奏が、少し意外そうな顔をした。

「……わかるのか?」
「わかるかは、わかりませんけど」

 奏は、しばらく紬希を見て苦笑する。
 それから、鍵盤に向き直って弾き始めた。
 第三楽章の冒頭――確かに、わずかにテンポが揺れる箇所がある。
 だが紬希には、それすらも美しく聞こえた。

「……どうだった」

 演奏が終わり、奏が振り返らずに問いかける。

「よかったです」
「それは感想になるのか」
「ええっと、じゃあ……」

 紬希は少し考えてから、ぽつりと呟く。
「揺れているところが、人間みたいで好きです」

 奏が、思いがけない言葉に動きを止めた。

「……人間みたい、とはどういう意味だ」
「完璧じゃないところが、奏さんらしくて」
「それは……褒めているのか?」
「褒めていますよ?」
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