アンコールは君だけに ~孤高のピアニストと秘密の契約婚~
   * * *


 穏やかな五月が終わり、六月に入った。
 梅雨入りを前にした屋敷の庭は、緑が濃く、深くなっている。
 紬希が自室で毎朝水をやっている紫陽花の鉢植えには、新しく小さな蕾が出始めていた。

 ――まだまだ咲いてくれるかな。

 紬希は、朝の水やりをしながらほくそ笑む。
 去年の今頃は、こんな屋敷に住むことになるとは思ってもいなかった。
 来年の今頃は果たしてどこにいるのだろう。
 その答えを出すのは、もう少し先延ばしにしよう。


 ――来年も、このお花が咲いているところを見ることができますように。
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