アンコールは君だけに ~孤高のピアニストと秘密の契約婚~
* * *
六月下旬の夕方、紬希は病院からの帰り道にいた。
今日は雅希の定期検診だ。数値は月初め同様、安定していた。主治医の言葉を反芻しながら、バスを待つ。
そこへ、紬希が持っていた携帯電話がぶるぶる震える。知らない番号の着信を不審に思いながら、通話ボタンを押す。
「……もしもし」
「紬希さん? 久住です、久住蓮。覚えてますか?」
――レンくん?
紬希は電話の主に驚いたものの、素直に応じる。
「レンくん……もちろん覚えているよ! どうしたの?」
「最近、病院で見かけないから心配で。お母さんから連絡先聞いたんですけど、大丈夫でしたか」
「うん、大丈夫だよ。ごめんね、心配かけて」
「雅希の様子は?」
「今日も検診で来てたんだけど、数値は落ち着いてるって」
「よかった……」
電話越しに、ほっとした気配が伝わってくる。
「紬希さん、少し時間ありますか。近くにいるんですけど」
蓮は、病院の最寄り駅のカフェにいるという。
紬希は少し迷って、バス停から離れ、駅に向かった。