アンコールは君だけに ~孤高のピアニストと秘密の契約婚~

 彼が待つ駅ビル内にあるカフェに入ると、蓮はすでに窓際の席に座っていた。
 背が高く、清潔感のある顔立ち。大学二年生で雅希と同い年のはずだが、落ち着いた雰囲気がある。

「お久しぶりです」

 蓮が立ち上がって、軽く頭を下げる。

「ほんとに。元気だった?」
「俺は大丈夫です。紬希さんこそ……」

 蓮は、少し言葉を選ぶように間を置いた。

「お母さんから聞きました。結婚したって」

 紬希は、コーヒーカップを両手で包む。注文したのは生クリームたっぷりのウインナーコーヒー。オーストラリアの首都ウィーンが由来だと言われているコーヒーを前に、思わず先日の欧州遠征を思い出していた。
 そうっと一口啜る。馬車の御者が温かいコーヒーが冷めないようクリームで蓋をしたのが始まりだというウィーン風コーヒーは、口当たりが滑らかなクリームの冷たさと、ほろ苦いコーヒーの温かさが喧嘩することなく共存していた。

「うん」
「……相手の方は、どんな人ですか」
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