アンコールは君だけに ~孤高のピアニストと秘密の契約婚~
――よかったも何も、契約で結婚しているだけ、だからな……。
その後は他愛のない話に終始した。
雅希のこと、蓮の学業のこと、昔の話。
蓮は雅希と同じ大学に通う幼馴染で、紬希が子供の頃から家族ぐるみで付き合いがある。話の種は尽きなかった。
カフェを出るときに蓮が言う。
「また連絡してもいいですか」
「もちろん!」
「雅希のことだけじゃなくて……紬希さんのことも、心配なので」
その言葉に、紬希は少し胸が痛んだ。
――レンくんは、ずっとこういう人だった。
真っすぐで、誠実で、気遣いができる。年下の彼氏ができたらこんな感じなのかなと思ったこともあった。けれど彼は紬希にとってはもうひとりの弟のような、家族に近い存在であって、隣に並ぶひとではない。
なぜなら今の紬希の胸にあるのは……。
「ありがとう。でも大丈夫だよ」
そう答えながら、紬希は自分でも気づいていた。
大丈夫、と言い切れる理由が確かにあることに。