アンコールは君だけに ~孤高のピアニストと秘密の契約婚~
 奏が立っている。
 昼間だというのに、どうやら仕事を切り上げて戻ってきたらしい。
 彼の視線が、蓮に止まる。

「……これはどういうことだ」

 声は穏やかだった。だが、彼の黒目は笑っていない。

「は、はい。久住蓮と申します。紬希さんとは子供の頃から」
「紬希」

 奏が、紬希に視線を向ける。

「少し、いいか」

 有無を言わさない声音だった。
 紬希は蓮に「ごめんね、少し待ってて」と言って、廊下に出る。
 奏は紬希の手首を掴んで、廊下の端まで連れていった。

「あの男は何者だ」
「だから、弟の友人で……」
「なぜ屋敷に来た」
「昨日渡し忘れたものがあったって……」

 奏の眉がわずかに寄る。
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