醜い私が美貌の聖女になったら、危険な恋をして国が滅びた。
 甲板の揺れと男の手の力が合わさり、まるで身体ごと攫われるような感覚。

 潮の生臭さ、血の匂い、男の汗が入り混じり、鼻腔を突き刺す。

 荒々しい笑い声と甲板を叩く足音が、遠くで反響しているようで耳が痛い。

 しかし、目の前の恐怖よりも、彼女の中で強く芽生えた思いがあった。
(もう、これ以上、弄ばれたくない!)

 ぐっと手首に力を込め、男の腰に差した短剣に触れる。
 心臓が跳ね、血の匂いが頭を霞ませる中で冷静に手を伸ばした。

「私が穢れるなんて、絶対に許さない」
 唐突に口から漏れたのは、まるで聖女としてのプライドだった。

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