あと30日で、他人に戻るふたり
カチャカチャとパイプの金属が擦れる音だけが、部屋に聞こえている。

無言に耐えられないとかではなく、気になってしまってつい尋ねた。

「説明書は読まなくていいんですか?」


私なら読まないと完成させる自信がない。
なんなら、説明書を読んでも完成させることができないかも。

「説明書?」

ここで初めて、彼が“説明書がある”ことを認識したみたいに顔を上げた。

「……どこにあんの」

「あそこに」

遠くにぶん投げられたみたいに置いてある紙を指差したら、興味なさげに視線が戻ってきた。

「いらない。読まなくても大体分かるでしょ」

「いや普通は分からないですよ」

「分かるよ」

「……普通じゃないのかもしれないですよ」

「……誰が?」

「……」

────朝から、噛み合わない。



肝心のランドリーラックは、というと。

気づいたら、もう形になっていた。


さっきまでバラバラだったパイプが、いつの間にか“それ”になっている。


「よし、できた」

満足げにそう言った彼が、ものの十五分ほどの爆速で完成したラックを持ち上げると洗面所へ向かった。

私もあとを追いかける。

洗濯機の高さともちょうどいいし、洗面台とのバランスもとてもいい。
よくこんなサイズ感が合うものを、さくっと注文して作り上げたものだ。


一瞬で馴染んだランドリーラックに、ちょっと感動してしまう。

「急に収納力上がりましたね」

「ね」

彼は納得したように笑うと、ぐっと伸びをした。

「これで一ヶ月、快適な生活が送れる」


寝ぐせがついたままリビングへ戻っていく彼の後ろ姿を見ながら、「…ですね」と遅れてついていった。


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