あと30日で、他人に戻るふたり
ベランダの窓を開けて、ひと仕事を終えたようにすっきりした顔でソファに腰かけた彼は、テレビをつけて寛ぎ始めた。

私も隣に座ると、おもむろにビニール袋を差し出された。

「パン食べる?」


袋の中に入っていたのは──食パン。


「……え?」

「朝ごはん、まだでしょ?食べる?」

八枚切りの食パンが、五枚残っている。
そのうちの一枚を彼が抜き取り、そのまま口に入れた。

「えっ!そのまま?トーストもしない?」

「めんどくさい」


ランドリーラックを組み立てるのは良くて、パンをトーストする方が面倒だというこの男の思考回路が本当に理解できない。

しかも、お皿も使わない。
合理の極みだ。


「待ってください。焼いてきます」

「いや、いいって」

「私が嫌なの!」

言い返して、差し出された袋ごと奪うと立ち上がる。


キッチンのトースターで二枚焼いて、残り二枚は冷蔵庫にあるハムとレタスを挟んで、そのままカット。
素早くお皿に乗せて、焼いたパンと即席サンドイッチをテーブルに持っていった。

「食パンじゃなくなった」

「食パンです」

「違うよ」

「食パンを焼いたり、なにか挟むくらい手間じゃないです。普通です」

「俺には手間なんだって」

「私がやったんだから手間じゃないでしょ?」

「────たしかに」


納得した顔でうなずいてから、彼はひと口サンドイッチをかじる。

少しだけ目を細めた。

「……うまい」


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