あと30日で、他人に戻るふたり
ソファから降りてきた彼が、パンを眺めながら首をかしげる。

「穂村さんって、料理好きなの?」

「え?うーん……」

サンドイッチを食べようとして、手を止める。
そんな質問をされると思わなかった。


料理は、嫌いじゃない。
かといって、得意なわけでもないし、絶対やるんだというこだわりもない。

手の込んだ時間のかかる料理なんかは、敬遠しがちだ。
疲れて帰ってきた日には、キッチンにも立ちたくない。


それはつまり、別に好きではない。


「生きるため、ですよ。私も。好きなわけじゃないです」

私が料理をする理由は、彼がパンを食べる理由とそう変わらない。
ただ、プラスアルファがあるだけ。

「料理をする理由なんて、そんなもんです。藍沢さんと違うのは、その“生きるため”の中にちょっとだけ温かさというか、手を加えたいだけです」

「温かさ?」

「ほんの少し足すだけで、美味しくなるから。美味しいものを食べてる時って、幸せになりません?」


私の問いかけに、彼は

「……どうだろう」

と少し考えるように視線を落としてから、

「でも、これはうまい」

そう言って、もう一口かじった。



日曜日の朝は、ゆっくり流れていた。

パンをかじる音だけが、静かに部屋に響いている。




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