あと30日で、他人に戻るふたり
あくびをしながら彼が答える。

「出かけるってなると、着替えたりするじゃん」

「あーーー、もー。そんなことばっかり言うから私も出かけたくなくなってきた」

「どっか行くの?」

尋ねられて、ぐっと答えに詰まる。
無意識にスマホを握る手に力が入った。

「……スーパーに行かないと。なにもないし」

「この間の定食屋行かない?」

「それだと私も藍沢さんも着替えないといけないですよ?」

「あー…めんどくさい」


そう言うと思った。
予想通りだったので笑ってしまった。

「自炊どれくらいできるか分からなかったので、必要最低限のものしか買ってなかったんです。お米買ってこようかな」

小分けのお米を買うのも割高なので、今日はちゃんと大きめのを買おう。

決意して起き上がったら、ほぼ同時に隣からも起き上がる姿が見えた。


「俺もパン買うから一緒に行く」

「ついでに買ってきましょうか?」

「ついでに米、持ってあげる?」

────なに、その絶妙な高ポイント狙い。

「ついでに、なにか作ってあげます?」


ここで、彼がふっと笑った。

「はい、交渉成立ね」

私より先に立ち上がり、洗面所へと姿を消した。


私は少し遅れて立ち上がる。

さっきまでだらけきっていたはずなのに、なぜか身体が軽かった。


視線を上げると、さっきまで彼が寝転んでいたソファが目に入る。

少しだけ沈んだクッションが、そのまま残っていた。


ついさっきまで隣にいたのに。

それだけで、なんとなく落ち着かない。


「……着替えないと」

誰に聞かせるでもなくつぶやいて、寝室のクローゼットに手を伸ばした。





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