あと30日で、他人に戻るふたり
「あ、いたいた」

かき分けて、彼が私の元にやっと戻ってきた。


「ますます人が増えてきたな」

と、彼は普通にカートを差し出してくる。

「野菜買えた?」

「はい……」


今、私なんて言った?

彼もあまりにも普通にしているから、ついさっきの出来事が“当たり前”みたいになっているけれど、本当はそうじゃない。


「米は?」

「まだです」

「あっちにあったよ」

今度は彼が先に歩き出した。
だけど時折、後ろを気にしてくれている。


いや、なんかもう、心臓がちょっと痛くなってきた。
なんで今このタイミングで、無意識に呼んでしまったんだろう。


キャップを深くかぶり直した。

顔を見られたくなかったのか、それとも、さっきの自分をごまかしたかったのか。

自分でも、よく分からない。




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