あと30日で、他人に戻るふたり
エコバッグから飛び出るネギが、買い物帰りっぽさを醸し出す。

五キロのお米は、彼が抱えている。
ネギが見えているエコバッグも、彼の肩に掛かっていた。


私はというと、潰れては困るもの──すなわちパンが入った袋を持っていた。

なんか、とてつもなく申し訳ない。


なんてことない顔で隣を歩く彼に、一応抗議らしきものはしてみる。

「重さの比率、おかしくないですか?」

「でもマンションまで近いし、苦じゃない」

「せめてそのエコバッグくらい持たせてくれたら…!」

「篠原さんとかに見られて、なんか言われたらめんどくさい」

「基準を篠原さんにするの、やめませんか?」


お隣の篠原さんにも申し訳なくなってくる。
私の抗議なんてすぐに宙に浮いて消えてしまった。


私たちの背中を、夕日が照らして影を伸ばす。

日曜日があと少しで終わる────
そんなことを思っているうちに、マンションが見えてきた。


さっきまで遠くにあったはずなのに、あっという間に着いてしまった。


805の部屋に帰るのも、もうすっかり慣れた。

鍵を開けて玄関を開けた時に、そういえばと思い出して振り返る。


「玄関に芳香剤を置きたいんですけど、いいですか?」

「芳香剤?」

リビングに荷物を置いて、彼が不思議そうに眉を寄せる。

「なんで?」

「今みたいに帰ってきた時、玄関開けたらふわっといい香りがしたら嬉しいからです」

「……“嬉しい”?」

「変な香りのものは置きませんから。大丈夫です」

「もう決まり?」

「はい、決まりです」


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